定山渓めぐり
2023.09.28

昭和の温泉街に若者が行列?定山渓温泉街〈山ノ風マチ〉ブームの仕掛け人とは・・・・・・

開湯157余年、札幌の奥座敷・定山渓(じょうざんけい)温泉。1970年代の高度経済成長期には大型の旅館やホテルが相次いで開業し、北海道屈指の温泉街としてにぎわった。昭和に一時代を築いた湯の街に、いま再び若者が殺到しているという。一体何ごと? 行列の先を探ってみると・・・・・・。そこには、定山渓温泉街のブームを仕掛けた人物が。第一寶亭留(だいいちほてる)グループの代表取締役社長の布村英俊さんに話を聞いた。

photo: Yoshitaka Morisawa / text: Tamaki Sugaya

〈山ノ風マチ〉のはじまりは「最中」だった。

札幌市内の中心部を流れる豊平川の上流、緑豊かな渓谷に開けた定山渓温泉街。1866年に修行僧の美泉定山がアイヌの案内人とともに源泉を発見したという逸話が残っている。市街地から車で約40分とアクセスもいいことから、常に観光客でにぎわいを見せていたが、バブル崩壊後はどことなく哀愁漂う温泉街と感じる時期もあった。

そんな定山渓温泉にここ数年、いくつもの行列が見られるようになった。若者を中心に列を成すその先には、〈山ノ風マチ〉エリアのスイーツやジェラート、パン、かき氷の店が。どこもお洒落な佇まいで、スイーツとスマホを携えた若者たちが楽しそうに闊歩している。いま札幌圏の若者たちの間で、「一度は行ってみたいスポット」に名前が挙がる〈山ノ風マチ〉。その仕掛け人は、北海道内で9カ所の宿泊施設を経営する〈第一寶亭留〉の代表取締役社長・布村英俊さんだ。

定山渓温泉街復活のきっかけをつくった〈坂ノ上の最中〉の「MONAKA」。

「大好きな温泉まんじゅうがあるんですけど、すぐに売り切れちゃうんですよ。なかなか食べられなくて。だったら、それに代わる何かを作っちゃおうかなって」と、布村さんは茶目っ気たっぷりに話す。自身が経営する〈第一寶亭留〉の宿は、どこも味自慢。一流の料理人たちとともに考案したのが、最中の皮でムースを挟む和洋折衷のスイーツ「MONAKA」だった。2017年に専門店〈坂ノ上の最中〉をオープンさせたところ、連日大行列ができる人気ぶり。これには布村さん本人も驚いたという。

点と点が線から面へ。定山渓の新たな魅力に

〈坂ノ上の最中〉の成功で、布村さんは確信した。「定山渓にはポテンシャルがある」ということを。「温泉街に宿泊するお客さんたちには、チェックイン・チェックアウトの前後に、『せっかくだから何かしなくちゃ』というタスクがあるんだけど、僕たちはそこを拾い切れていなかったんです」。

その翌年、今度は少し離れた場所にジェラートショップ〈雨ノ日と雪ノ日〉をオープンさせる。「夏が短く、平均気温の低い北海道でジェラートショップの出店はリスクが大きい。だから雨の日や雪の日は、黒豆茶や1フレーバープラスのサービスをつけたんです。天気が悪くてもちょっとうれしい気持ちになれるでしょ」と、人懐っこい笑顔を見せる布村さん。ピザレストランと抱き合わせたこの店もまた、連日行列の大成功を収めた。この2店舗を往来する人たちが増え、にわかに温泉街の通りが活気づいてくると、さらに翌年には、リーズナブルな料金で、A5ランクの和牛をたっぷり味わえ、全国の銘酒を集めた宿泊施設〈旅籠屋 定山渓商店〉を開業。その頃には、布村さんが仕掛けた点と点は線になり、面をつくろうとしていた。

〈雨ノ日と雪ノ日〉。イートインもテイクアウトもできる。ジェラートはジャージー牛乳を使用。

〈旅籠屋 定山渓商店〉は、アメニティなど付属のサービスを最低限にとどめて料金をリーズナブルに設定。料理や酒、空間への満足度は高い。

コロナ禍の逆風にはマーケティング力で立ち向かう

終始にこやかで、物腰柔らかく話す布村さんだが、マーケットを見定め、先を見通す目は鋭い。2020年、コロナ禍のまっただ中に始めたのは、年間100日だけ営業するかき氷店〈森乃百日氷〉だ。「ジェラートと同じように、北海道はかき氷の需要期間が道外と比べて圧倒的に短い。でもここには温泉がある。体が温まったら冷たい物が食べたくなりますよね。だから100日間限定のかき氷店にしたんです。しかも当時はコロナ禍で料理人たちの手が空いていたので、『プロの料理人が、かき氷で本気を見せたらどうなるの?』って、考えてもらいました」。このかき氷店もまた言うには及ばず、コロナ禍もなんのその。100日にわたって長蛇の列ができない日はない。

〈森乃百日氷〉の人気商品「木苺」。このほか「抹茶」「くるみきな粉」の3種が定番メニュー。器は自社窯で焼いたもの。

4年目となる2023年は、好評につき2店舗で展開。

「!」が止まらない!!

ここまで来ると、快進撃は止まらない。2021年には〈エクスクラメーションベーカリー〉をオープン。マーガリンやショートニングは一切使わず、料理人たちが本気で考えた惣菜パンやデニッシュは、北海道産のバターと小麦粉で丁寧に作る。絶品のパンには、やはり行列が。パンを食べながら、店舗前の足湯に浸かるのも風情があっていい。

〈エクスクラメーションベーカリー〉2階席。

一流料理人たちが考えた本気のパン。

ベーカリー前の足湯。

翌年にオープンしたのは、ベーカリーとウッドデッキで繋がる〈風マチビルヂング〉。ケーキやサブレを販売しカフェとしても機能する〈ハレとケ洋菓子店〉や〈第一寶亭留〉グループで一つ星を取ったシェフが手がける〈食堂いち〉が入る。さらには、同年、住所非公開の完全予約制カレー専門店〈秘密のカレー部屋〉もオープンさせ、定山渓の温泉街はますます活気づく。

〈風マチビルヂング〉に入る〈ハレとケ洋菓子店〉。

定山渓の「朝日岳」をモチーフにしたサブレでクリームをサンド。テイクアウトもOK。

定山渓温泉は進化する。今後に乞うご期待!

こうしたブランディングは、布村さんを中心とするスタッフたちで行い、パンフレットの制作やインテリアコーディネートもすべて内部で行っているというから、これまた驚きだ。「宿泊する人だけでなく、日帰りで定山渓に遊びにこようというお客さんの数は確実に増えました。でも、僕らの本業は旅館業。やはり滞在時間を長くしてもらいたいんです」と、布村さんは現状に甘んじることがない。

〈食堂いち〉の店内。調理行程を眺めながら、料理を待つ時間も愉しめるカウンター席も充実。

彩りも鮮やかな〈食堂いち〉のメニュー。

「風マチは、定山渓温泉のゲートになってくれたらと思っています。風マチに来て楽しんで、定山渓の温泉に泊まって、また風マチで遊んで帰る。そうなってくれたら」とも。再来年には、定山渓本来の魅力である温泉に浸かり休日をのんびり過ごせる場所〈休日湯(仮称)〉の開業に向けて、現在、準備が進められているとか。今後も定山渓温泉街のゲート〈山ノ風マチ〉から目が離せなくなりそうだ。

〈第一寶亭留〉代表取締役社長の布村英俊さん。創業家に生まれ、大学卒業後に入社。その後、一度退社し立教大学大学院で経営と観光学を学びMBAを取得。

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